先日、10月1日付の辞令で、うちの総務部に新しいメンバーが2人やってきました。
1人は営業部からの異動、もう1人は他業界からの中途入社です。
どちらも仕事ができそうな方でした。
それでも、初日の夕方に部内で話題になったのは、経歴やスキルの話ではありません。
「あの人、名前を覚えるのが早いね」「話し方が感じいいね」といった、ちょっとした言葉づかいの話でした。
はじめまして、食品メーカーの総務部で12年働いている三好沙織です。
新入社員研修の運営や来客対応を担当していて、異動者や中途入社の方を受け入れる側に立つことが多い仕事です。
私自身も29歳のときに転職していて、初日は緊張で声が裏返った記憶があります。
エン・ジャパンが2022年に公表した調査では、87%の人が「転職先での人間関係に不安を感じる」と答えています。
不安を感じる相手のトップは「直属の上司」でした。
この記事では、受け入れる側と迎えられる側の両方を経験した立場から、初日の第一印象を整える話し方のコツをまとめます。
初日の印象は「話の中身」より「言葉の選び方」で残る
受け入れる側の本音を言うと、初日の自己紹介の中身はあまり覚えていません。
前の部署の名前や趣味の話は、翌週にはだいたい忘れています。
逆に、はっきり覚えているのは言葉の端々です。
「すみません」を1日に何十回も言っていた人や、質問のたびに「今お時間よろしいですか」と一言添えてくれた人のことは、何年たっても思い出せます。
言葉づかいを大事にしているのは、私の周りだけではないようです。
文化庁の「国語に関する世論調査」(令和6年度)では、今後も敬語は必要だと思う人が94.9%にのぼりました。
必要だと思う理由(二つまで回答)では、「相手を尊敬する気持ちを表せるから」が73.2%、「表現がやわらかく、人間関係を円滑にすることができるから」が59.3%です。
一方で、明るい数字もあります。
厚生労働省の「令和7年転職者実態調査」によると、転職した人のうち、今の勤め先の人間関係に「満足」「やや満足」と答えた人は62.1%でした。
「不満」「やや不満」は13.4%にとどまります。
入る前は不安でも、多くの人はちゃんと職場になじんでいます。
初日はその最初の一歩なので、完璧を目指すより「感じのいい人だな」と思ってもらえれば十分です。
朝の挨拶と自己紹介は短く、名前をはっきり
自己紹介は30秒から1分にまとめる
マイナビ転職やリクルートエージェントの解説でも、職場での自己紹介は30秒から1分程度が目安とされています。
受け入れる側としても、この長さはちょうどいいと感じます。
話が長いと、聞いている側は「仕事の説明も長い人なのかな」と身構えてしまうからです。
入れる内容は、名前、前の所属、ひと言の抱負くらいで足ります。
私が研修で紹介している例文を載せておきます。
異動の場合の例文です。
「本日から総務部に配属になりました、佐藤です。
これまでは営業部で5年間、量販店の担当をしていました。
総務の仕事は初めてなので、しばらくは質問ばかりになると思います。
どうぞよろしくお願いいたします。」
転職の場合の例文です。
「本日入社いたしました、田中と申します。
前職では物流会社で10年ほど、倉庫の管理を担当していました。
早く皆さんのお名前と仕事の流れを覚えたいと思っています。
よろしくお願いいたします。」
どちらも、最後に「覚えたい」「質問します」と、これから教わる姿勢を入れています。
聞いている側は、ここで「話しかけていいんだな」と安心できます。
前の職場の話は「比べる形」にしない
初日から数週間でいちばん印象を落としやすいのが、「前の会社では」「前の部署では」という言い方です。
本人は情報を伝えているつもりでも、聞く側には今のやり方を否定されたように聞こえることがあります。
転職サイトの解説でも、よく注意点として挙がっています。
前の職場の経験を話すなとは言いません。
言い方を少し変えるだけで、受け取られ方は変わります。
| 場面 | つい言いがちな言葉 | 言い換えの例 |
|---|---|---|
| やり方に違和感があったとき | 前の会社では、もっと早く処理していました | このやり方になっている理由を教えていただけますか |
| 自分の経験を役立てたいとき | 前の部署ではこうしていましたよ | 前の部署で似た作業をしていたので、何かあればお手伝いします |
| 気づいたことを伝えたいとき | これ、非効率じゃないですか | 慣れてきたら、一つ相談させてください |
気づいたことは、すぐ口にせずメモしておくのがおすすめです。
1か月ほどたって全体が見えてから話すと、同じ提案でも聞いてもらいやすくなります。
初日によく使うひと言を見直す
口ぐせになりやすい言葉の言い換え
緊張していると、同じ言葉ばかり繰り返しがちです。
特に「すみません」は、謝るときにもお礼を言うときにも使えるので、初日は何度も口から出てきます。
| よく出る言葉 | 気になりやすい理由 | 言い換えの例 |
|---|---|---|
| すみません(お礼の場面で) | 謝ってばかりの印象になる | ありがとうございます |
| 了解です | 目上の人には軽く聞こえることがある | 承知しました |
| なるほどですね | 相づちとして雑に聞こえることがある | そういうことなのですね |
| 参考になりました | 目上の人には失礼に受け取られることがある | 勉強になりました |
| 全然大丈夫です | くだけすぎた印象になりやすい | 問題ありません |
言い換えを全部覚える必要はありません。
私の場合は、まず「すみません」を「ありがとうございます」に変えるところから始めました。
お礼を言われて嫌な気持ちになる人はいないので、いちばん効果を感じやすい言い換えです。
「お疲れ様です」は使っていいのか
「お疲れ様です」を目上の人に使っていいのかは、研修でも毎年のように質問されます。
失礼だという意見を見聞きして、迷っている人が多いようです。
実際の使われ方を見てみましょう。
先ほどの文化庁の調査では、仕事の後に自分より職階が上の人へかける言葉として、「お疲れ様(でした)」を選んだ人が77.1%でした。
「ありがとう(ございました)」は16.5%、「御苦労様(でした)」は3.5%です。
職場の挨拶としては、「お疲れ様です」がもっとも一般的な言葉になっています。
ただ、社内で日常的に使う言葉と、取引先や来客に使う言葉は分けておいたほうが安心です。
私は社外の方には「本日はありがとうございました」と、具体的なお礼で締めるようにしています。
質問するときは相手の時間から聞く
初日は分からないことだらけなので、質問するのは当然です。
受け入れる側も、黙って困っているより聞いてもらえたほうが助かります。
気をつけたいのは、聞くタイミングです。
相手がパソコンに向かって集中しているときは、いきなり本題に入らないほうが親切です。
「2、3分ほどよろしいですか」と、かかる時間を先に伝えると、相手は区切りをつけて顔を上げやすくなります。
「あとでまとめて伺ってもいいですか」と聞いておけば、急ぎでない質問をいくつか一度にまとめられます。
教わったら、その場で確認とお礼を返す
教える側が不安になるのは、説明したあとに反応がないときです。
うなずいているだけだと、伝わったのかどうかが分かりません。
「つまり、月末の締めまでに申請すればいいということですね」と、要点を一度自分の言葉で言い直してみてください。
間違っていればその場で直してもらえますし、教えた側も「ちゃんと聞いてくれている」と安心します。
最後に「ありがとうございます、助かりました」と添えれば、次も気持ちよく教えてもらえます。
帰り際のひと言で初日を締める
初日は朝の挨拶ばかり気にしがちですが、意外と印象に残るのは帰り際です。
受け入れる側の私も、新しい方が初日の終わりにどんな言葉で席を立ったかは、よく覚えています。
黙って帰ってしまうのは、もったいないと思います。
周りが忙しそうで声をかけにくいときも、近くの席の人と直属の上司にだけは、ひと言かけてから帰るのがおすすめです。
- 「本日はありがとうございました。明日もよろしくお願いいたします」
- 「〇〇さん、今日は色々教えていただいてありがとうございました」
- 「お先に失礼します。明日は〇〇の続きから教えていただけると助かります」
三つ目のように翌日の話を入れると、「明日もこの職場で頑張るつもりです」という気持ちが自然に伝わります。
私が転職した日は緊張で言葉が出ず、小さな声で「お先に失礼します」と言うのが精一杯でした。
翌朝、隣の席の先輩から「昨日は疲れたでしょう」と声をかけてもらえて、ずいぶん救われたのを覚えています。
名前を覚えて、名前で呼ぶ
受け入れる側がいちばんうれしいのは、名前で呼ばれたときです。
2日目に「三好さん、昨日はありがとうございました」と言われて、その人の印象が一気に良くなったことがあります。
名前を覚えるために、私が転職したときにやっていたことを挙げます。
- 座席表をもらい、話した人の名前に印をつける
- 話した内容をひと言メモしておく(「経費精算の担当」など)
- 呼びかけるときは「あの」ではなく名前から入る
- 名前があやふやなときは、正直に「もう一度お名前を伺ってもいいですか」と聞く
最後の一つは勇気がいります。
それでも、間違った名前で呼び続けるより、早めに聞き直したほうが相手にとっても気持ちがいいものです。
受け入れる側の言葉づかいも第一印象をつくる
ここまで新しく来る側の話をしてきましたが、第一印象は迎える側にもあります。
初日に「何でも聞いてね」と言ってもらえるかどうかで、新しいメンバーの肩の力の抜け方がまるで違います。
文化審議会が答申した「敬語の指針」には、敬語は「人と人との相互尊重の気持ちを基盤とすべきもの」と書かれています。
この相互尊重には、部下に対して上司が、教わる側に対して教える側が、相手の立場や状況に配慮することも含まれています。
言葉の気くばりは、目上の人に向けるものだけではありません。
総務部では、新しい方が来る日は「最初に話しかけるのは誰か」を決めておくようにしています。
小さな工夫ですが、初日に誰とも話さずに帰る人がいなくなりました。
異動してくる人が年上や元管理職のこともあります。
そういうときこそ、迎える側が「ここでは一緒に覚えていきましょう」と先に声をかけると、お互いに遠慮しすぎずに済みます。
初日の前に読み返したい1冊
言い換えの引き出しを増やしたい人に、最近読んだ本を紹介させてください。
2026年9月に明日香出版社から出た、諏内えみさんの本です。
諏内さんはマナースクールEMI SUNAIの代表で、『「育ちがいい人」だけが知っていること』シリーズで知られています。
仕事や友人関係、会食、メールやLINEといった場面ごとに、「こんなとき何と言えばいい?」に答える101の言葉が収められています。
目次には「『すみません』一択を卒業する」「名前を奪わない」「出社の『気まずさ』を一掃する一言」など、初日の自分に読ませたかった項目が並んでいます。
「『お疲れ様です』は本当に正解なのか」という項目もあり、先ほどの疑問の答え合わせにもなります。
個人的に印象に残ったのは、内容紹介にある「気くばりとは、自分を犠牲にして相手に合わせることではありません」という一文です。
初日は相手に合わせようとして、つい無理をしがちです。
相手を大切にしながら自分も無理をしないという考え方は、新しい職場で長く働くうえでも支えになると感じました。
256ページありますが、1項目が短いので、通勤の電車で少しずつ読めます。
気になった方は、『大人がしている 気くばりのある話し方』のAmazon商品ページで内容紹介や目次の雰囲気を確認できます。
まとめ
異動や転職の初日に、完璧な自己紹介をする必要はありません。
覚えてもらえるのは、話の中身より言葉の選び方です。
- 自己紹介は30秒から1分、名前をはっきり言う
- 前の職場の話は、比べる形ではなく質問や提案の形にする
- 「すみません」の一部を「ありがとうございます」に変える
- 質問するときは、かかる時間を先に伝える
- 帰り際は、お礼と翌日のひと言を添える
- 相手の名前を覚えて、名前で呼ぶ
全部を初日にやろうとしなくて大丈夫です。
一つ選んで明日から試してみてください。
私も12年前の初日は、「すみません」ばかり言っていました。
それでも今は、新しい人を迎える側に立っています。
緊張していても、言葉を一つ選ぶ余裕があれば、初日はきっとうまくいきます。
